linkプロフィール心象スケッチフォトダイアリー政策三村申吾の姿勢ホーム
VOL.11 [2005.4.20]
今安全と安心なくして原子力なし

 去る4月13日、核燃料サイクル協議会で強く必要性を訴え、このほど正式に発足した「日本原子力技術協会」の設立記念パーティに出席した。
 同協会は、九電力会社やプラントメーカー、ゼネコン等々、原子力関連事業者百十社から成る。しかしながら同協会は、原子力事業者からの独立性を有し、客観性をもった第三者的な立場からけん制機能を発揮することになっている。つまりは、原子力業界全体のお目付役ということになる。
 協会設立記念パーティに当たり、スピーチを求められ、次のように挨拶した。
 私は、知事就任以来、原子力はもとより、風力、太陽光、バイオマスなどの再生可能エネルギーの利用やそれらを活用したマイクログリッドの実証研究、さらには、むつ小川原ボーダレスエネルギーフロンティア構想に掲げ、平沼赳夫氏等と研究会を立ち上げた水素・燃料電池分野への取組みなど、エネルギー分野全般に深く係わって参りましたが、この中でも、原子力には批判的意見がつきものです。
 私は、県民の安全・安心第一という立場からこうした意見に対しても常に謙虚に耳を傾けて参りましたが、「なぜ、日本は原子力を進めなければならないのか」、今一度振り返って、この国の将来や人類の将来を見据えた議論やコンセンサスが必要なのではないかと感じております。
 私は、20世紀はまさに欲望の時代であったと思います。人間の欲しいままに資源やエネルギーが際限なく地球から搾取されてきた時代であります。その結果はどうであったでしょうか。
 地球は水と緑の惑星であり、大気、海洋と生物とが40億年をかけて共に進化して生み出されたものであり、微妙なバランスの上に成り立っております。しかし、今や、そのバランスに影響を与えかねない程の存在となっているのが今日の人類であります。

 現に、太平洋に目を転じてみますと、母なる太平洋に抱かれたミクロネシアの国々からは、島が、国が、消えかねないという悲痛な叫びが聞こえております。
 ミクロネシア地域は、トラック諸島、ポンペイ島、マーシャル諸島のマジュロ環礁など、美しい珊瑚礁が発達し、多くの鳥類・魚類が住む「地上の楽園」と言われております。
 それが今まさに消えようとしているのです。津波による影響ではありません。地球温暖化という世界レベルの危機が海水面を上昇させているのです。この内の何センチかは私たち日本人の責任かもしれないのです。
 それは海水面の上昇だけではありません。二酸化炭素などの温室効果ガスの増加による温度上昇は、異常気象をもたらし、世界中の人間と食糧、さらに全ての生物に大きな影響を及ぼします。
 そして、その影響が顕在化してから対策を実施しても、その効果が現れるのは数十年かかるだろうと言われております。
 だからこそ、私たちは、ただ単に日本のエネルギーの安定供給のためだけではなく、それぞれの立場で地球的視野に立った行動を直ちに起こさなければならないものと考えます。それぞれの分野が、それぞれの立場で、今なし得ることを行わなければならないと考えます。
 私は、私ども青森県が進め得るものとして、先程も申し上げた再生可能エネルギーの利用、風力、太陽光、バイオマスによるマイクログリッド等の実証研究や水素・燃料電池分野への取組みについて強い意志をもって継続していくことをお約束したいと思います。
 
 ところで、最近は、環境保護論者の立場からも原子力の必要性が主張されてきております。
 例えば、イギリス国教会のビショップのヒュー・モンテフィオーリは、著名な環境保護運動家であり、英国「地球の友」の幹部でしたが、地球温暖化対策としては新エネルギーの開発は間に合わず事実上原子力に頼らざるをえないとしております。
 さらに、ガイア理論で著名なイギリスのジェームズ・ラブロックは、環境保護運動の父として広く知られておりますが、地球温暖化対策のためには原子力エネルギーの利用しかない、原子力発電は最も安全な発電方法であると言っております。
 また、最近の地球科学の研究では、温暖化の進行が地域間の気候の格差を拡大し、中緯度地方では氷河の発達を促すという一見パラドキシカルな現象が起こるのではないかとする説もあると聞いております。
 まさにガイア理論が示唆するように、地球は複雑なシステムとして反応しているものであり、実験室のフラスコやビーカーではないのです。

 一方、昨今のエネルギー情勢は、原油高が続き、ついには1バレル当たり58ドルを突破するまでに至っておりますが、このような原油高は輸入国である日本にとって由々しき事態であると同時に、金利高やインフレ懸念など世界経済の混乱を招きかねない事態となっております。
 こうした最近の世界情勢を見ても、脱化石燃料、再生可能エネルギーと原子力のベストミックスの機運が着実に高まっていくものと思います。
 我々人類は、温暖化による地球規模の反応の前には、全く無力であります。まさに、パスカルの言う一本の葦にすぎません。しかしながら、人間は考える葦であります。そのような意味で、技術集約型のエネルギーである原子力は人間の英知によりコントロールが可能な分野であります。
 私は、技術万能主義にも、楽観的未来論にもくみいたしませんが、21世紀の人類には、一本の葦としての分をわきまえ、理性ある対応が求められているのです。
 ただ残念ながら、原子力はエネルギー密度が高すぎ、ヒューマンスケールを超えた巨大技術になっています。このことが、目に見えない放射線に対する恐怖と共に、原子力に対する不安を助長しております。
 だからこそ、原子力には安全と安心が求められているのです。まさに安全と安心なくして原子力なしなのであります。原子力業界の社員や現場の作業員一人一人がしっかりとこの思いを心に刻み、原子力業界の使命を全うしていただきたいと思います。
 
 私ども青森県民、そして国民の多くは原子力のトラブル・不祥事の発生から事業者に対しては不信を拭い切れておりません。日本原子力技術協会は事業者から独立した組織であり、第三者の視点で事業者の活動をチェックし、その結果を公表することで、原子力の透明性を高め、県民、国民の安全と安心に繋がるものであると確信しております。
 日本の安定的なエネルギー供給のための原子力を進める上で、本日設立された日本原子力技術協会の今後の活動に大いに期待しているところであります。
  日本は、技術を持って戦後の復興をなし得た国であり、本日お集まりの皆様方は、この国の最高の技術をそれぞれお持ちの方々であります。技術立国日本の再生のために、皆様方の奮起を願って本日のご挨拶といたします。
                                                          (以上要約)


三村 申吾

Copyright(C) 2006 Shingo Mimura. All Rights Reserved.