「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」 (藤原敏行)
実に今時分の空や風によって、醸し出される“空気”を巧みに詠みとった秀逸な歌と思う。朝晩の風にふっと秋の気配を感じる今日この頃である。
そして秋といえば夜長。しかも昼のレクチャーで、“この2年間(就任以後)のプライマリーバランスは完全に黒字を達成しています。しかし残念ながら公債費は以前の多大な事業をこれから支払う借金ですから、平成26年まで、ぐんぐん上昇し続けます。つまり、相当の努力を重ねても財政硬直化は当分続きます。”などという現況説明を聞かされたあとではますますよく眠れない、というわけで『博士の愛した数式』(小川洋子)を読んだ。
ここでお披露目したいのは、同書のストーリーというよりもモチーフとなっている数式の面白さである。
例えば、6や28を完全数というらしい。
6や28は約数を足すと
1+2+3=6
1+2+4+7+14=28
と、自分と同じ数字になる。
完全数はこの他に496、8128、33550336、8589869056、などが見つかっているらしい。
また完全数は連続した自然数の和で表すことができる。
6=1+2+3
28=1+2+3+4+5+6+7
何の意味があるのかと問われれば、ンー何とも云えないが「宇宙の秘密」「神様の手帳」が透けて浮かび上がっているものと同著の博士は考えているようだ。
この他に、フェルマーやデカルトも生涯1組ずつしか見つけられなかった「友愛数」というものが披露される。
「220」と「284」は友愛数である。「神の計らいを受けた絆で結ばれ合った滅多に存在しない数字の組合せ」と博士は云う。
220の約数を足すと1+2+4+5+10+11+20+22+44+55+110=284
284の約数を足すと1+2+4+71+142=220
となる。友愛数は紀元前6世紀、ピタゴラスの発見という。
なお、上記に近い次の友愛数は、「1184」と「1210」の組であるそうだ。
小説の方は、こういう数式の神秘を散りばめながら数学者である博士と家政婦と少年の日常やほのかな友愛の想いをあたたかな筆で描写してある。
こんな着眼点の小説はこれまで読んだことがない。数式がストーリーを導いてゆくとは、なんと斬新な発想であろうか。
さて、ピタゴラス、パガニーニ、オイラーにミムラも続けとばかり秋の夜長に紙と鉛筆と、電卓(いい時代だ)を引っぱり出して、何か発見できないかといろいろ数字を並べていると、覿面に眠くなる。眠いと感じたほとんど数秒後には意識が失われている。
羊を数えるより効果的だ。博士ありがとう!
催眠の効用もあります。ぜひ皆さんも何か数式を発見しませんか。
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