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VOL.55 [2008.3.6]
私を川部へ連れてって 3
 「大釈迦」のホームの積雪、ざっと1m80cm。
 乗り降りも相当にあった。
 それを見ていたYさんが、おもむろに、にこっと曰く
 「あのぉー、降りる時にかっこつけて、車内側の『閉』ボタンを押しながらって事はしない方がいいですよ」
 「なんでー?、みんな上手く“決め”てるじゃないの」
 「わたしですねー、今じゃなくて、もっと前ですからね。今はそんな下手なことしないんですけどね。“さあ川部だ、降りよう”って『開』押して、すぐ『閉』押しながら降りようとしたら、したら、本当に首だけドアに挟まって、危なかったんですよぉ」
 「えー、で、どおなったのよ、首、挟んで、救助は?」
 「大変だぁ、大変だぁ、こんなところで死なれないって、必死で自分で手を伸ばして、ボタンに届いて、やっと開けて、手が長くて良かったとその時、思いました。けど、死ぬほど恥ずかしくて、後ろ見ないでホーム走って階段上がって、逃げるように駅から出た。(この“出た”に力が籠もって、まなざしが真剣で迫力ありました)振り向けなかった!!」
 「そうだ、振り向くな。うしろには何んにもない」
 と、こちらも手に汗握る思いの感情移入で、つい声を荒げてしまった。
 ちなみに上述は寺山修司のセリフにあったかな。
 (4月1日からの県立美術館での渾身込めた『寺山修司展』をよろしくお願いします)
 ふたりで大笑いしているうちに、2分少々は頗る短いので、662Mはするすると走り出していた。
 「浪岡」に着いた。

  ――行き違いのため3分間停車します
 と○田さんの几帳面なアナウンスがあった。

 なるほど、こうして駅ごとに列車すれ違いのため停まるんでは、ロス時間が多く感じられるから、地元の皆さんから複線化要望が数十年に渡って出され続けているのだろうと考えた。私たちも国鉄そしてJRに何十年間、要望活動をし続けているが、しかして、対応は何十年間も同じで厳しいものがある。

 さすがに大きな町「浪岡」の乗降は本日最多だった。
 3分間、ウルトラマンみたいに停車しているところでYさん、
 「やややや、雲の流れがすごい早いですよ。風雲急を告げるって、こおいう事でしょうか」
 「んー、用例としては、それはどうかな、んー」
 ところで、これからは3分間“少々”停車は、“ウルトラマンしてる”って云うことにしようとYさんと内輪で決めた。
 で、その3分間を待つうちに、どんどん冬の旅は夕方の色合いを濃くしてきた。
 雲も増えてきた。
 何て云ったらよいかなあ。どんよりっていう感じが適当だろうか。重たく泣き出しそうな空っていうのかなあ。
 また走り出し、川としばらく並行する。夕方という時間帯と冬枯れに雪の風景が相まってしみじみした雰囲気だ。
 と、
 「北常盤」の手前、大変なことになった。これはエライこっちゃ!エライこっちゃ!

  ――当列車は、運転司令と運行について話し合うことになりました。風のため停車します。

 ややや、確かにYさんの「風雲、急を告げる」は極めて正しい用語用法だった!
 とは云うものの、ど、どうなるのでしょうか。津軽平野の真ん中で、停まった我らが622Mの運命やいかに。

 4へ引き続く。もっとご期待)
三村 申吾

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