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VOL.61 [2008.3.25]
オジさん“鯖恋し” 

 家人が杉花粉アレルギーらしい。眼が痒い、鼻水が出るとティッシュペーパーを箱で持ち歩いている。
 ちなみに例の“ピカイチデータ”では、青森県人は日本で2番目にティッシュを買うらしいので、持ち歩きもまんざら変ではないのかな?
 ところで、今年の杉花粉は、昨年の何倍もらしい。従って、家人のみならずアレルギーの方々は大変しんどいと思う。
 流行(はやり)に敏感な自分であったはずだが、オジさん化して以来、杉花粉はへっちゃらのようで、“ははは、キミ、鼻水が出てるぞ”と家人を指導できることは春のひとつの喜びではある。

 しかし家人は、“ふふん”とオジさんをせせら笑いながら、春だからそんなにも旨くもないだろうに、実に美味しそうに塩焼きした鯖を、オジさんの前でひとりでパクパクと全部食べる意趣返しをする。
 実にけしからん。実に生意気だ!
 もしこれが、「嫁に喰わすな」の秋鯖ならば、離縁ものだ。
 だって、オジさんは鯖が食べられないのだ。

 Once upon a time.
 昔々、オジさんの大々好物は、塩焼き鯖、味噌煮鯖だった。
 鯖缶ももちろんだ。
 母親があきれるほど本当に良く食べていた。
 だって、百石の前沖は、日本一大量に良質の鯖が獲れる海だった。
 (今じゃ、時には鯖一本と鮭一本が同じ高値だから、何ほど獲れなくなったことか)

 さて、これほど好きな鯖ではあるが、確かに自分でも、ン、何か少し問題があるのかな?アレルギーってやつかな?と自覚するところはあった。
 生鯖というか、締めでもまれに首周りにポツポツかゆいかゆいがでる事があった。
 しかして、ある夜、オジさんは救急車を呼ぶまではしなかったが、動けなくなった。
 ただただ気色が悪い、吐きたいのに吐けなく、口がほとんどきけない、脂汗だらけで、地球の自転と逆に目がくるくる回る。
 あまりの状態に、我が町立病院救急外来に引きずられるように連れて行かれた。こんな事は初めての状態で、本当にもうだめかと思った。
 “ああ、織田信長は、♪人生50年〜とひと舞いしての桶狭間、我は歩くもままならず、♪人生40年〜などと思った”と家人に後で語ったけれど、実際はそんな事すら考えられないほど具合が悪かった。
 Dr.がやって来た。
 吐けずのたうち回っているオジさんを見るなり、
 Dr.「あー、あたってるよ。こりゃひどい」
 とおっしゃるものだから、オジさんとしては、この若さで“アタリ”かと意識朦朧と考えたけれど、
 Dr.「何食べたの」
 家人「冷凍してあった鯖を焼いて食べたらしいです」
 Dr.「ひどいね、匂うね。こりゃどうしようもない。胃洗浄しちゃった方がいいね」
 “な、なんと。TVで見るには、胃洗浄とは例えば薬物の自殺未遂者がされる事ではないか、鯖でか!”
 と情なく思う間もなく、鼻からチューブをするすると入れられて、“おりゃおりゃ、こりゃひゃっこい”と忘れもしない感触があって、見る見るシャーレというか処置用の皿に、出てくる出てくる。
 んー、ホントだ。こりゃ鯖だ。いかにも悪くなっている鯖の匂いが処置室に充満した。
 “さらば友よ、さらば鯖よ”
 出るわ出るわ出るわ。
 さばさばっと気分。さっぱりしたゼ。
 信じられませんが、ケロッと気分改良、めきめきと良くなった。
 Dr.「アレルギーあったんじゃないですか」
 オジさん「時々ポツポツ出てたけど」
 Dr.「こんな事になったんだから、もう止めた方がいいと思いますよ」

 こうして、オジさんは、愛する鯖と別れの日を迎えたのでした。
 職業柄、好きな嫌いな食べ物とかのアンケートに答えるのですが、鯖は嫌いなわけではなく、食べられなくなったのだと、この機会にご理解下されば幸いです。
 ああ、それにしても、愛しきは鯖の塩焼き、恋しきは鯖の味噌煮・・・
 さようなら

  

三村 申吾

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