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VOL.77 [2008.5.27]
苗は三本、心はひとつ

 今日は田植えだと思ったら、高校生のデートみたいにドキドキしてお天道様と一緒に4時半には目覚めてしまった。
 窓の外の津軽平野はどこまでも晴れわたっている。
 さっそく本日のユニフォームとして紅屋さんで560円で入手した短パンとTシャツに着替えて、ラジオ体操第一を思い出しながら準備運動。十二分に脚・腰をゆるめておかないと久々の前かがみでの泥の中だから、脚がつったりぎっくり腰になってはいけない。
 短パンには訳がある。
 前回安直に作業服と長ぐつで気楽に出かけて、雨用長ぐつで動きのにぶくなった両脚が抜けなくなって田んぼの真ん中で立ち往生し、恥ずかしながらトラクターに救出された。
 その轍を踏むまいと今回は裸足で勝負と考えたのだった。
 本日ひとり朝食だから、冷凍パンをオーブンで焼いてゆで卵は2個、バナナを2本食した。
 子供の頃から、運動会や遠足やらのひと仕事の時はモチを3個焼いて食べるのだが、手持ちがなかったのと、健康福祉部長に瞬発力にはバナナが一番ですよと指導をうけていたのだ。(しかしなぜ青森県民は日本で一番バナナを食べるのだろうか。バナナ最中まである?)

 数時間後、血気にはやる短パン半袖おじさんは、前回脚もとをすくわれた、いや、抜けなくなったあの宿命の田舎館中学校横の田んぼに素足サンダルばきで立った。
 田舎館のオヤジTが、
 “なんだば変なかっこうで来たな”
 と話すや、本日の田植えチームがみんなで“あははは”と大笑いになった。
 オヤジU“はだしだば、だめだはんで。昔と違って田螺いねども、足切ってケガする。長ぐつ長ぐつ”

 結局、短パンに長ぐつの珍妙なスタイルになった。
 しかし、まっかせなさい。本日は腰の落とし方と脚運びを十和田随一のプロH氏に教わってきたのである。
 6時から作業していたとの事で、田植機があらかた植えてしまっていたけれど、わざわざ植えないでおいてくれた一角に(オヤジすまない!!)苗をわけてもらって突撃した。
 なんて、いい泥の香りなんだろうか。
 なんて、甘くて懐かしくて、胸キュン、ドキドキの水と土、そして吹きわたる五月の薫風。
 ちょっと顔をあげれば左右に八甲田と岩木山。
 しかし、前回その感傷のままに泥の中に深く深く左右両方の長ぐつが沈んで抜けなくなったのだ。
 田んぼへの恋心を断って、今回はえいや、えいさと左に泥をよせて3本、右に寄せて3本、植えてはバックオーライ。
 「苗は三本、心はひとつ」の教訓通りだ。(これは三本木農業高校の田植えの合言葉である)
 オヤジたちと母さんたちが、はやしてくれる。
 “たいしたもんだぁ、今年は上手だはでー”
 一列目、二列目終了。脚をとられそうだったけれど、左右抜き足の方が早くて、うまくいった。
 再突入。
 三列目、四列目終了。五・六列突入、お、お、もうバナナが切れたか、脚が重い。いやここは泥が深いぞ。沈む〜。
 右、長ぐつ水没!撃沈!
 しかし、今年はズボボボ――と水入りのまま浮上。救助不要で動けた。
 かつ、何というか作業ズボンごと泥にはまらなかったという意味で短パンが役に立った。
 “あははは”とみんなで一緒に笑って、ひと休み、いっぷくタイムとなった。
 自分の家の田植えでも、この休憩の時間が好きだった。南部の方では小昼(こびる)という。何も手伝わないで畦を走り回って、田螺を見つければ採ったりだけが仕事だったけれど、小昼になると一丁前におにぎりや、お菓子や牛乳をすわって食べて飲んだ。
 本日は母さんの姉さんが、あずきまんまを握ってきてくれた。赤飯にたっぷりあずきの入ったおにぎりだ。そしてあったかいお茶。
 5月とは云え、水の中、やっぱり冷えていたし、バナナを食べたのは5時だ。もうエネルギーは切れている。
 おいしい。
 あったかい。
 ゆったりと時間が流れていく。
 すごくすごく心なごんだ。田んぼのひと休み、小昼時間のあまりの懐かしさに40年分気持ちがさかのぼって田舎館の子供になった。

三村 申吾

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