いっちゃん（岡部伊都子さん）から最後の便りをいただいたのは、４月の初めだった。
　精をつけて欲しいと送った山ぶどうジュースのお礼の葉書だった。もうペンは持てない状態で代筆ではあったものの、逆に激励をいただいた。
　いっちゃんは４月２９日に亡くなった。次の日、ご家族と電話で話もさせていただいたのだけれど、この数年、何度も危機を脱していたことを思うと未だに信じられないでいる。
　いつも、何度も、還って来てくれたいっちゃんだから、“また邦夫さんのところに行けへんかったわ”と冗談めかして微笑んでくれると今日も、今も、最後の葉書を見つめながら思っている。
　邦夫さんとは、沖縄戦で戦死した許婚である。
　週末にはお別れ会があって、いっちゃんの死を納得するためにも、意を決して出席する。
　この３０年、いっちゃんからは真心をいっぱいいただいた。
　美しく生きる凛とした姿勢をいただいた。
　何よりもあふれるばかりの愛情をいただいた。
　だからこそ、お別れに京都へ行くことはとても悲しい。
　６０年余りもかかったけれど、いっちゃんには今度こそ邦夫さんと本当に幸せになって欲しい。
　今は、その事だけを心から願っている。