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VOL.95 [2008.9.10]
私を田んぼアートに連れてって5
“そう、あれは私がまだ女子大生の時でした。平成5年、2500uの田んぼに紫稲と黄稲、つがるロマンの3種類の稲を使って、岩木山の図柄と「稲文化のむら いなかだて」の文字が描かれました。帰省して見た時、村もなかなか面白い事をするわねと思ったものでした。それが始まりでした。しかし、平成13年までは同じ図柄で変化せずにおりました。”
“Yさん、その手帳、びっしり書き込んでるね。”
“は、は、は。何事も準備下調べが肝心です。”

 Yさんは大いに気を良くして、さらに手帳を捲った。

“平成14年、大転機が訪れました。NHKの企画「千人のちから」に挑戦することになり、面積を一挙に15,000uに拡大し、『岩木山と月』を描きました。大きな稲穂をデフォルメして描いた岩木山の上に、ぽっかりと満月が浮かんでいる構図でした。
面積は6倍になりました。大きな田んぼ2枚分に花札の超巨大な月見札が描かれたと思って下さい。なんと縦143m×横104mでした。私、あの時は本当に感激しました。
次の年の平成15年。結構笑えました。だけど、案外私はこの年の『モナリザ』が今でもすごく自分の村っぽいというか、素朴そのもので好きです。面積を3,500u 縦75m×横47mに小さくしたのですが、遠近法なんてことはあまり考えてなくて、超小顔で、超巨体で、手なんか3本指で顔の3倍近くもあったりして、なんか絵としてはちょっとひどいんです。でも、もう一度云いますけど、村のみんなですごく頑張って、とにかくモナリザの絵になったよなってところが、とても好きでした。私、(なんか涙ぐんでいる)みんな笑うんですけど、絶対自分の村はすごいって、とにかくみんなでよくやったんだって、誇りに思ってます。
“Yさんの気持ちわかる。村おこしって一生懸命みんなで努力する、その努力から、いろんなすごい事が起きてくるんだよね。で、16年は?”
“遠近法の勝利ですよ。村にレオナルド・ダ・ビンチが現れて、棟方志功が田んぼに降りてきたと申せましょうか。面積を15,000uにどかーんと戻して、縦143m×横104mの『羅?羅の柵(らごらのさく)』と『山神妃の柵(やまのかみひのさく)』に3万人のお客様が訪れて、唸りました。たった1年で劇的な進歩でした。
けれど、17年はさらに素晴らしかった。稲でこんなに繊細なところまで表現できることが驚きでした。写楽と歌麿の浮世絵が田舎館で競演したんですよ。ド迫力ってこのことですよね。サイズは、同じく縦143m×横104m。なお、これ以降今年まで同じ大サイズです。13万人が写楽の『二代目大谷鬼次の奴江戸兵衛(にだいめおおたにおにじのやっこえどべえ)』と歌麿の『歌撰恋の部・深く忍恋(かせんこいのぶ・ふかくしのぶこい)』に拍手大喝采でした。
18年もこの路線。今までの「紫稲」「黄稲」「つがるロマン」に加え、「紅都」「紅紫」の赤色の品種も使用して、さらに精緻な線と多彩な色彩で、俵屋宗達の『風神雷神図屏風』を見事に表現しました。20万人が来てくれました。

 (せっかくだから写真で見て欲しいですね。ホームページで見られます。 http://www.vill.inakadate.aomori.jp/ です)

恵比寿様と大黒様を眼下に、Yさんは瞳キラキラ、村のセールスレディとして頑張ります。

“19年は北斎。これは芸術性が更に高かったですよ。私5回は友達を案内したりして来ました。神奈川沖のあの大波がまさに崩れんとする一瞬を我が村のアーティストが田んぼに活写しました。「富嶽三十六景」から『神奈川沖浪裏(なみうら)』『凱風快晴(赤富士)』は最上の出来でしたね。でも、私、『モナリザ』が、うちのこの姪っ子が描いてくれる私の絵みたいで懐かしい。さらにお客様が増えて、24万人も来て、天守閣に登ってくれたんですよ。”
“そして、今年の恵比寿様と大黒様とつながるのか。うーん。Yさんありがとう。田んぼアートへの愛情いっぱいの説明にホント感動だね。”

 わーっと走り回ってる姪っ子甥っ子が「Yちゃん、キミ食べに行こう。家行って遊ぼう」と云い出した。ちょっと飽きたかな。子供たちをYさんに任せて、お父上と天守閣の別方向を巡る。

“こっちの北側の浅瀬石川の田んぼの米が最高なんですよ。美味しい事、美味しい事。黒石の人たちも、米を取り替えてくれって云うんです。”

 役場の集落の向こうに、見るからに美味しそうな田んぼが広がる。雨も上がって、夕方の少し曇った太陽が田んぼをキラキラ光らせている。ああ、瑞穂の国の田んぼは美しいと心から見惚れる。
西側は岩木山と弘前の城下町。昔の満天姫もこんな光景を見たのだろうか。津軽に何を思ったのだろうか。
南へ回る。

“大鰐ってどの辺になりますか?スキー場は夏だから見えないんですか。”
“いや、ちょうど山の陰なんだべな。ここに登るといい眺めだなって思うんだ。ゆっくり見てるとさっぱりどするなぁ。”


 お父上の語る如く、この天守閣から四面の津軽平野を見渡していると、心伸びやかに寛ぐ。津軽の中原(ちゅうげん)の地、田舎館の天守閣で、大いにいわゆる浩然の気を養うことが出来た。
 朋友よ、田舎館田んぼアートにいざや行かん。稲刈りは10月5日との事。まだまだ日にちはたっぷりあります。

三村 申吾

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