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VOL.126 [2012.07.19]
『花のもの言う』
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 昔々、新潮選書版でお手伝いをした、恩師久保田淳先生の好著『花のもの言う―四季のうた』が岩波現代文庫で復刊された。
 この優雅なタイトルを、久保田先生と新潮社きっての名編集者S女史が相談していた際の、そのレベルの高さに新米の自分は、すっかり自信を失ってしまったことを思い出した。 和歌文学のダントツの第一人者に、知識見識学識堂々と伍するSさんの論に、先生もひとしきり感心され、うんうんと頷いていた。 不肖の弟子は、あたふたするのみであった。
 ちなみに本書は、 「ふるさとの花のもの言う世なりせばいかに昔のことを問はまし 出羽弁」 (後拾遺集) からタイトルを貰っている。 手に取り、さらさらページをめくると、実に30年の時を経てなお、本書をゲラで読んだ時の、感激と感慨が、蘇ってくる。 古今集序文で「たとひ、時移り、事去り、よろこび、かなしび、ゆきかふとも、この歌の文字あるをや」と歌の持つ永遠性を云い切った紀貫之に、賛同したい。
 時間を超越して、何十年何百年いや千年、いつでも輝きを失わない名歌名句の凄さを、改めてこの『花のもの言う』にも思う。 それぞれ青森の自分、東京の先生、福岡のSさんとなれば叶わぬ事だが、今宵は30年前のように、先生やSさんと本郷のT屋辺りで呑んで語る、いや、学びたくなった。『酒の(んで)もの言う』もまた楽しい事ではなかろうか。良きお酒の良き場の思い出も永遠に記憶されるものだ。

三村 申吾

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